ワクチン接種本格化へ備え 休職看護師や遊休バス活用
新型コロナウイルスワクチンの接種本格化を前に、全国の官民が準備を急いでいる。対象者は4月12日から優先接種が始まる高齢者だけでも3600万人。その後、呼吸器や心臓に関する病気や糖尿病など基礎疾患のある人、一般接種へと移り、2022年2月末まで続く壮大な計画だ。円滑に進めるには人材・場所の確保に向けた工夫が欠かせない。
「医療史上最大」担い手発掘
看護職の人材育成などに取り組む大阪府看護協会(大阪市)は看護師免許を持ちながら臨床を離れている人を対象に、新型コロナウイルスのワクチン接種に関する講習会を3月から開いている。ワクチン接種は多くの住民を巻き込む「医療史上最大のプロジェクト」。現役の医師や看護師だけでは人手不足で、潜在的な担い手を掘り起こす。
18日午前、講習会に参加した13人はワクチンの取り扱い方法や、コロナの特徴などを3本の動画を見て学んでいた。身を乗り出し、手に持ったペンが盛んに動いたのが、急激なアレルギー症状であるアナフィラキシーが発生した際の対処方法の解説部分。場の空気が変わった。
休憩を挟んで取り組んだのが、接種の模擬練習。参加者は3人一組となり、まずは小型容器内のワクチン(模擬では蒸留水を使用)を希釈して注射器に充塡する工程を確認した。薬液の量などチェック項目は多い。協会の担当者が「互いに声をかけながら作業をしてください」と呼びかけた。
ワクチン接種の講習会で、腕の模型を使って筋肉注射の実技を行う休職中の看護師(18日、大阪市城東区)
準備ができると、参加者は注射器を持ち腕の模型に針を刺す。正しい位置、深さに達すれば緑、間違うと赤が点滅する。知識を得て何かの役に立ちたいと参加した大阪市の後藤優一さん(34)は「確認を一つ一つできたので、実際の場に出るときの不安感は軽減できた」と話す。講習会には24日までに約460人が参加した。
遊休バス活用
千葉県や東京都でバスを運行するなの花交通バス(千葉県佐倉市)は、接種会場としてバス車両を活用することを提案する。車内の座席を取り外してスペースをつくり、テーブルや椅子を設置。問診から接種まで車内で完結させることができる。接種後の経過観察の待機場所として使う車両も併せて派遣する。座席の間や通路にはビニールカーテンを設置するなど、感染防止対策も徹底する。
バス活用の最大の利点は移動できること。「山間部など交通弱者が多い地域に派遣し接種してもらうことができる」(国嶋通孝取締役本部長)。過疎地域の巡回や、職場ごとの集団接種のため企業に派遣する使い方も想定する。
ワクチン接種後の経過観察場所として活用を想定している大型バスの車内はビニールシートで覆われている(5日、千葉県佐倉市)
料金は貸し切りバスの運賃に準拠する。すでに多くの自治体に提案しており、今後、ワクチン接種担当者向けに実際の車両を公開する説明会も開く。現在までに10カ所ほどから問い合わせが来ているという。
同社の主力は団体ツアーや修学旅行などの貸し切りバス事業。だがコロナ禍で利用が激減し、2020年春から秋にかけて売り上げは8割ほど落ち込んだ。国の「Go To トラベル」効果でいったんは盛り返したものの、感染再拡大を受け、21年2月は再び8割減と苦しい状況が続く。遊休車両の稼働につなげ、さらに「同じような環境に置かれている全国のバス会社にこの取り組みが広がれば」(国嶋氏)と話す。
駅前接種
調布駅前に建設中の新型コロナウイルスワクチン接種のためのプレハブ会場(18日、東京都調布市)
東京都調布市は高齢者の集団接種に向け、市の中心市街地である京王線調布駅前に臨時のプレハブ会場を設置する。3密を避けるため、待機席を1人ずつ仕切り板で区切り、医師が席を巡回して予診から接種、副作用の確認まで行う独自の方法で実施する。
プレハブ会場は面積565平方メートル。週末を含めて毎日、接種する医師2人と看護師6人、薬剤師2人のほか、接種担当以外の医師も1人配置し、1日約430人、1週間で約3000人に接種できるようにする。
接種会場の建設が急ピッチで進む(18日、東京都調布市)
予診、接種などと分かれているブースを高齢者が回るときに行列ができるリスクを防ぐため、医師が待機席を巡回する方法を採用する。ブースへの案内役の人員が不要になり、少ない人数で効率的に接種を進められる利点もある。
調布市には高齢者向けのワクチンが4月第2週からまず975人分配布される予定。4月上旬に医師などと接種のリハーサルを実施する。
日本経済新聞より