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介護留学生「お礼奉公」悩む 奨学金返済免除、就職拒否で白紙

2021.05.27更新

介護留学生「お礼奉公」悩む

 

★奨学金返済免除、就職拒否で白紙★

☆「義務と知らず」退学も☆

 

介護を学ぼうと来日する留学生が増えるなか、奨学金のトラブルが目立ち始めた。卒業後に特定の施設で働けば返済免除となる仕組みを利用。求められた就職を拒否したところ、学校側に退学や一括返済を迫られた、と主張する。契約を巡って双方が対立する現状は、高齢者福祉の一端を海外人材が担うという国の将来像にも影を落とす。

高知県香南市の介護福祉専門学校に通っていたベトナム人留学生の女性(21)が4月30日、高知地裁に訴状を提出した。学校を運営する社会福祉法人を相手取り、約2カ月前の退学処分を不服として約460万円の損害賠償を求めた。

訴えによると、入学時の契約は2年間の学費205万円を奨学金で賄うほか168万円の生活費も貸与するとの内容が盛り込まれていた。

女性は入学前、卒業後は法人系列の介護施設で3年以上働くことを希望する、という誓約書に署名。しかし、卒業目前の2月下旬になって施設での勤務を拒み、間もなく退学となった。

「誓約書は当時の希望を確認したにすぎず、就職は義務ではなかった。生活費を約束通りに貸してもらえなかったことも不信感につながった」と訴える女性。法人の理事長は取材に「在学中に金銭を巡る不正行為があった」と話す。双方の溝が埋まらないまま、争いは法廷に持ち込まれた。

学費などを奨学金で賄いながら大学や短大、専門学校で学び、国家資格の取得後や卒業後は給付元の関係施設に一定期間勤務することで返済が不要になる-。こうした契約の仕組みは「お礼奉公」と呼ばれ、看護や介護の現場で久しく活用されてきた。

 

国「一括」に制約

 

一方、国は団塊世代の全てが75歳以上になる2025年に、介護職員が38万人不足すると想定。17年9月に在留資格「介護」も設けて外国人受け入れを拡大した。

日本介護福祉養成施設協会(東京)によると、14年度に養成施設に入学した外国人留学生は5カ国17人だったが、20年度には20カ国2395人に急増している。

介護留学生の増加を踏まえ、奨学金契約については18年3月、法務省入国管理局(現出入国在留管理庁)が「留意事項」を公表した。

入管は関係施設への勤務を条件に返済を免除する仕組み自体を「差し支えない」としながらも、「留学生が貸与条件や返済条件を理解している」「特定の機関に就職しなかった場合に一括返済を求めない」といった制約をつけた。

それでも「相互の認識の違いを巡る相談が寄せられている」(同協会)という。外国人支援に携わるEPA看護師介護福祉士ネットワーク(名古屋市)の平井辰也代表は「在留資格の新設後に来日した留学生が卒業時期を迎えて以降、トラブルが表面化してきた」とみる。

長崎県では21年2月、西海市の社会福祉法人から約160万円の奨学金を受けながら短大で介護を学んだフィリピン人女性2人が、卒業間近に法人の施設への就職を拒否した。

 

理解せずに署名

 

2人は契約書に署名した際、英語やタガログ語の翻訳などがなく、内容を理解していなかったと主張する。法人側は「説明が不十分だったとの認識はない」と取材に説明、分割払いを怠ったとの理由で2人に奨学金の未返済分144万円を一括で返済するよう求めている。

介護人材養成の現場で相次ぐ混乱。外国人雇用に詳しい杉田昌平弁護士は、学んだ技術を母国に持ち帰るために来日する技能実習生との違いに着目する。

「技術実習制度では受け入れ窓口の監理団体が実習状況を確認する役目も果たし、問題があれば企業を指導できる。留学生の場合、入管が来日前の審査で契約書などをチェックする程度で、入学以降のトラブルの有無を第三者が把握する仕組みがない」という。

結城康博・淑徳大教授(社会福祉学)は「『お礼奉公』は卒業後の就職先とのミスマッチといった問題を抱えながらも、若者は奨学金、学校・施設側が学生・職員の確保という利点を得ることで、看護や介護の人材育成手段としての役割を担ってきた」と話す。

その上で「3者の信頼関係がぐらつけば外国人材の受け入れ基盤も失いかねない。学校・施設側には、規定の明確な契約書を留学生の母国語でも準備し、契約の際には通訳をつけるといった基本的な対応が求められる」と強調している。        

(外国人共生エディター  覧具雄人)

      2021年5月27日付 日本経済新聞より