「お礼奉公」拒否 退学は無効
~留学生、介護福祉士の資格取れず~
「勤務、法的義務なし」高知地裁
専修学校で介護を学んでいたベトナム人女性が、卒業後に系列施設で働くのを拒否し退学処分になったのは不当などとして、学校側に卒業認定や約640万円の支払いを求めた訴訟の判決が22日、高知地裁であった。佐々木隆憲判長は「(系列施設に)勤務する法的義務はなく退学は無効」とし、学校側に卒業認定と88万円の支払いを命じた。
留学生が奨学金を受け取り、系列施設などに就職して「お礼奉公」するケースは多い。原告の代理人は「学校側による職業選択の不当な制限に警鐘を鳴らした画期的な判決」と話す。
判決などによると、原告のグエン・ティ・ゴック・カムさん(24)は2019年に専修学校香南学園(高知県香南市)に入学。2年間の学費205万円を給付される奨学金契約を結んだ。卒業後は同校を運営する社会福祉法人「香南会」で3年以上働くことを希望するとの誓約書に入学前に署名していた。
しかし、次第に同校に不信感を抱くようになり、卒業を控えた21年2月24日に校長に「系列施設以外に就職したい」と伝達。原告側は、翌25日に退学を通知され、卒業資格がないため介護福祉士の資格を取得できない状況となったと主張する。「誓約書は希望の認定にすぎず、退学処分は学校側の裁量を逸脱している」と訴えていた。
被告側は「卒業後3年以上就労する合意があり、就職しないというのは自主退学の意思表示だ」としていた。判決は「卒業後に系列施設に勤務する義務があったとはいえず、原告が自主退学する理由もない」と指摘し、退学処分は違反と判断した。判決や今後の対応について、香南会は「現時点ではコメントしない」と回答した。
原告側代理人の富田さんと弁護士は「賃金水準が低い新興国の若者が日本での学費を来日前に工面するのは難しい。特定施設で一定期間働くことを前提とした奨学金の仕組み自体が悪いとはいえない」と指摘する。
一方で「過剰なペナルティで職業選択の自由を制限することは許されず、
今回の判決は学校側に警鐘を鳴らしたといえる」と話している。
日本経済新聞より 2023年9月23日
介護福祉士
身体・精神上の障害により日常生活に支障がある人を介護し、周囲などに指導もする専門職。1987年に国家資格ができ、2022年時点で約187万人が登録している。取得では専門学校、短大、大学など指定施設で学ぶ「養成施設ルート」、3年以上の実務経験の後に研修・試験に臨む「実務経験ルート」などがある。外国人が長期就労できる在留資格「介護」を取得するには介護福祉士の資格が必要となる。