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「治す介護」で脱・寝たきり ー水運補給や歩行が基本にー

2023.11.13更新

「治す介護」で脱・寝たきり

 ~水分補給や歩行が基本に~

 

介護保険の要介護・支援度を改善する「自立支援介護」が広がってきた。2021年度の報酬改定で加算措置が創設されたのを機に、自力での歩行や排便などを目指すサービスが徐々に浸透。「お世話の介護」から「治す介護」にシフトし、健康や生きがいを取り戻す高齢者が増えている。

 

9月末、長崎県佐世保市のデイサービスセンターでは天井につながるベルトで体を支えられた高齢者が歩行訓練機で汗を流していた。体重の負荷を最大5割減らし、転倒の恐怖感をなくす。運営する介護サービスのポラリス(兵庫県宝塚市)が独自に開発した。森剛士社長は「600人以上を介護保険から卒業させた」と説明する。

 

大谷キヨ子さん(86)は2年前に浴室で倒れ、腰椎圧迫骨折で入院、寝たきりになる可能性があった。歩行訓練機のおかげで1年で自力で歩けるようになり、「要支援2」が取り消された。「歩行訓練は転ぶ心配がなく安心」という大谷さんは「筋肉を柔らかくする水分を取る大切さも教えてもらった」と喜ぶ。

 

長崎県は坂が多いが職員の付き添いを受けて歩いたり、趣味のサークルを紹介されて活動が増えたりしたことも早期回復につながったと感じる。

 

同社が兵庫県加古川市で運営するデイサービスセンターに通う伊田一朗さん(75)は脳梗塞による右半身まひで「要介護4」に認定されていた。自立支援介護で「要介護2」まで回復し、車椅子生活からつえを片手に歩けるようになった。「孫の高校野球を観戦したい」。動機を高める目標を職員と共有し、球場内の階段も上り切った。

 

自立支援介護は16年に政府の未来投資会議で方針が打ち出された。介護費の抑制にもつなげるため、21年度の介護報酬改定で加算措置を導入した。医師の評価を受け、利用者ごとに計画を作りケアする自立支援促進加算(利用者1人あたり原則月3000円)や栄養マネジメント強化加算など16種類ある。

 

日本自立支援介護・パワーリハ学会の顧問を務める医師の竹内孝仁氏は「水分、運動、栄養、排便の4つの基本ケアをうまく組み合わせることが自立支援介護のカギを握る」と説明する。

 

竹内氏によると「水分」は運動する際の「体のガソリン」。運動の効果を大きく左右する。こまめに飲んで1日1500ミリリットルが目標という。「運動」では毎日30分以上歩くことで、脳の働きや肺の免疫機能を高め、認知症や肺炎の予防になる。

 

「栄養」では食事や会話の喜びを失わないため流動食は極力避ける。要介護者は1日1500キロカロリー、健常者は2000キロカロリーが目安となる。「排便」では排便時間を記録し、予測することも寝たきりからの脱却を促し、介助者の負担も減らす。

 

この「4つの基本ケア」について竹内氏は「自宅でできることも多い」とアドバイスする。

 

特別養護老人ホーム「東京令和館中野」(東京・中野)では日々の栄養や水分摂取量、運動量などを把握、分析するシステムを開発した。薬や下痢、おむつの使用を抑え、医師などとケアを随時見直す。頸椎(けいつい)損傷で紙おむつを着けていた男性(71)は、食物繊維の補助食と水分摂取、運動を組み合わせた結果、寝たきりだった要介護4から2に回復。トイレも自力で可能になった。

 

介護保険に詳しい日本総合研究所の紀伊信之リサーチ・コンサルティング部門部長は「自立支援介護が広がれば介護の質が高まる。利用者や家族にとってメリットが大きい」と期待している。

(高畑公彦)

 

~自立支援加算の施設増~

 

厚生労働省によると、2023年4月時点で自立支援介護の報酬加算を取った事業所は21年同月から2倍の約5万3300になった。全国の施設に占める割合は45%に上っている。

 

自立支援介護の加算を取得するには、介護サービスの利用者情報を蓄積するデータベース「LIFE」(科学的介護情報システム)に登録する必要がある。6月には寝たきりから改善したり、おむつから脱したりした利用者の割合などを全国平均と比較できるようにした。

 

同省老人保健課は「加算を取得する事業者は増えており、サービスを利用する際には自立支援の取り組みも参考にしてほしい」としている。

     日本経済新聞より 2023年11月4日