特定技能 魅力なし?
昨年の臨時国会で「労働力不足に対応するため」として、急ピッチの議論の末に創設された在留資格「特定技能」。制度スタートから8ヵ月たった今も低空飛行が続く。特定技能への移行が進むとみられていた技能実習生は増加の一途だ。ただ待遇の劣悪さを訴える声は後を絶たない。
~突貫のツケ、態勢整わず~
「特定技能を活用しよう」。11月25日、ミャンマーの人材派遣会社「ミャンマー・ユニティ」が東京都内で開いたセミナーには約100人がつめかけた。多くは、技能実習生の受け入れ窓口である監理団体や、特定技能で来日する外国人の支援機関の関係者だ。
ミャンマー・ユニティ最高顧問の北中彰さんは、軌道に乗らない特定技能の現状への不満をあらわにした。「試験が少なすぎる。今の100倍にするべきだ」
ミャンマー政府にも対応を急いでほしいと思っている。送り出し機関が労働者から得られる手数料など細目が決まっていないため、人を集められないでいる。
特定技能の資格を得る人が増えない理由について、ある協同組合の幹部は「枠組みだけ急ごしらえで、それを動かすシステムもマネジメントもなかった。やってくる人の母国の制度とすりあわせができていない」と指摘する。「受け入れ緩和を発表すれば、アジアの国々は喜んで送り出すと思っていたかのような、おごった発表の仕方だった」
だが送り出し国のルールが整備されても、送り出し機関が「特定技能」に乗り気になるかは不明だ。
技能実習生の最大の送り出し国であるベトナム。ハノイの中堅の人材派遣会社幹部は、ベトナム政府が9月に示した特定技能のルール案をみて「技能実習生の送り出しの方がもうかる」とクビをすくめた。
案によると、1人あたりの手数料などとして日本の受け入れ企業から2800㌦(約30万円)、特定技能の資格者自身から給料2ヵ月分まで徴収できるとされている。一方、技能実習生からは現在、ベトナム政府が定めた手数料の上限の3600㌦(約39万円)の2倍超を取っている。さらに受け入れ先の企業から、毎月数千円の「管理費」を得ているのだという。
(機動特派員・織田一、藤崎麻里)
~「転職可能」骨抜きの恐れ~
特定技能の仕組み自体、使いにくく、魅力が乏しいものになっている。
外国人労働者関連の法務に詳しい宇都宮市の行政書士、深見史さん(66)によると、人手不足の企業から特定技能について相談はあるが、手続きが煩雑で費用が高くかかると知ると、ためらう企業が多いという。
特定技能の申請には、200枚ほどの書類を入管に提出しなければならない。また企業にとってみれば、送り出し機関や登録支援機関に費用を支払わなければならないため、日本人と同等の賃金を払えばかえって高くつく。人材を育てても5年という上限がある。
働く側にとっても、給料は技能実習生よりは高いが、家庭を帯同できず、将来の展望もない。5年間だけと割り切れる人以外は、メリットがないという。
特定技能や技能実習制度に詳しい神戸大大学院国際協力研究科の斉藤善久准教授(49)は、特定技能について「転職の自由があり、送り出し機関などを仲介せずに直接契約できる、とされたが、骨抜きになっているのが実情だ」と指摘する。「誰にとってもメリットがない制度になっている」
転職の自由について、入管庁は、労働者が大都市や大企業に集中するのを懸念する。各分野の業界団体は引き抜き防止を申し合わせる方針だ。飲食料品製造業は、すでに3月に「引き抜き自粛」を申し合わせた。
企業の直接雇用についても、ベトナムとの覚書では、特定技能を取得できるのは、試験に合格するだけでなく、同国政府が許可した送り出し機関から送り出された人だけになった。日本側でも、企業を支援する名目で「登録支援機関」がつくられ、労働者との間に介在する仕組みになった。
技能実習から特定技能に移る場合も、同じ会社に居続ける人が優遇される仕組みになっているという。「我慢し続けた人へのご褒美、という感じだ」と斉藤氏は批判する。
(平山亜理)
~制度伝わらず詐欺被害も~
特定技能の送り出し国として想定される国の一つ、インドネシア。政権が政策の柱に人材育成を掲げており、特定技能への期待も大きい。ただ両国の協力覚書は6月にずれ込み、試験が始まったのも10月末だ。
同国では、日本の新制度導入が正確に伝わっておらず、混乱が起きている。
インドネシアで、労働者らの渡航準備や職業訓練を請け負ってきた事業者の男性は「日本で働くための仕組みが多くありすぎて、誤解や困惑が起きているケースは少なくない」という。
外国人労働者の問題を扱う同国のNGO「SBMI」のケースワーカーは「特定技能制度をかたるなど、詐欺の被害にあったという申し出を数件受けた」と話す。無登録とみられる仲介業者が、就労希望者から手数料をだまし取り、日本に行けないケースも報告されているという。
一方で、日本の技能実習制度の現場で低賃金や暴力に苦しめられ、失踪する人は後を絶たない。
(野上英文=ジャカルタ、平山亜理)
2019年12月17日付 朝日新聞より 一部抜粋
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