「すぐにできる腰痛対策 ノーリフトケアとは」

2019.05.22更新

「みんなの介護ニュース」より引用

ー第365回 5割弱の介護職員が腰痛で離職を検討!有効な対策は介護ロボット導入か、ノーリフトケアかー

職業性の腰痛による年間の医療費用は800億円も

腰痛対策をしている介護事業所はたったの18%
アシストスーツ事業を行っている企業『ユーピーアール株式会社』が2019年1月に行った調査によると、「介護現場で働くスタッフの46%が、腰痛を理由に離職を考えた経験がある」ことがわかりました。また、介護事業所がこうした腰痛対策を行っていると答えた事業所はわずか18%にとどまり、8割以上が離職理由となり得る腰痛への対処をしていないことも判明しています。
腰痛が原因で離職を考えたことがある
出典:ユーピーアール株式会社のプレスリリース記事を元に作成 2019年02月20日更新
一方、腰痛対策を実施している介護事業所でもっとも多かったのは、ストレッチや腰痛予防体操といった、予防運動を実施しているという回答でした。次いで多かったのは、福利厚生として、腰痛ベルトの配布や、腰痛に関わる費用の支給を行っているという回答になります。
順天堂大学の伊藤助教らが2013年に発表した研究の結果によれば、こうした職業性の腰痛における直接医療費は、2011年度において約800億円にまで膨らんでいるとのこと。腰痛へのケアは、日本経済への負担を解消する意味でも急務であると言えるでしょう。

介護職は腰痛になりやすい
厚生労働省の発表した資料では、仕事の業務に関連する腰痛は2009年に発生した業務上疾病(7,491件)のうち、6割(4,870件)を占めていることが公表されています。
また、こうした腰痛の発生割合は、介護業務を含む保健衛生業が全体の約24%を占めており、年々増加傾向にあるとのこと。腰痛が発症したタイミングで一番多いのは、「人を介在した動作を起こしたとき」というデータがあることからも、腰痛はこうした介護職の職業病であることがわかります。
厚労省は、介護業務で腰痛が起こりやすい3つの理由を、『介護業務で働く人のための腰痛予防のポイントとエクササイズ』で挙げています。
その3つは以下の通りです。
1.介護のために「前屈み」や「中腰」「利用者を抱きかかえる」といった、とにかく腰に負担をかける動作を多くすることでおきる「動作的要因」
2.「作業場の足元の照明が暗く、安全の確認ができない」「身体が長い間、寒冷にさらされる」といった、環境が腰に負担をかける「環境要因」
3.年齢や体格、筋力、腰椎椎間板(ようついついかんばんしょう)ヘルニアのような持病といった、個人の能力が影響する「個人的要因」
動作的要因と環境要因については、動作マニュアルや施設の環境改善で負担を緩和できると言われており、事業所が腰痛の深刻さをどれだけ理解し、対策を実行しているかが鍵となっています。
腰痛対策として注目されている介護ロボットも普及が進まず…

介護ロボットを導入している事業所は少ない
こうした腰痛対策のひとつとして、介護ロボットが開発されています。介護ロボットとは、スタッフをサポートする各機能を持ったロボットのこと。介護ロボットは対象者をセンサーで見守ったり、移乗作業を楽にしてくれます。
このなかでも腰痛対策として機能するのが、介護をする人が装着することで介助作業をアシストし、腰への負担を軽減することができる移乗ロボットです。千葉市では介護施設に介護ロボットの無料貸与が行われ、岩手県でも導入費用を補助されるなど、国は介護職員の腰痛対策として移乗ロボットを推しています。
東京都社会福祉協議会が2018年12月に発表した『アクティブ福祉 第35号』によれば、事業所を対象に行ったアンケートで、「介護ロボットについて事業所全体として興味がある」と答えた割合は77%。多くの介護事業所が、介護ロボットについて興味を持っているのは確かなようです。

介護ロボットを導入しているか
出典:『アクティブ福祉 第35号』(東京都社会福祉協議会) 2019年02月20日更新
ところが、同アンケートによれば、介護ロボットを実際に導入している事業所は36%と全体の4割にも満たないことも判明しています。現実には、これらの介護ロボットはまだまだ普及していない状況にあるのです。
介護ロボットを導入した際の費用対効果を事業所は疑問視
介護ロボットの普及が進まない理由は、いくつか存在しています。まずひとつに、介護ロボットの価格が数百万から1,000万円と、非常に高価であるという点です。先述した岩手県のように、補助金を出す自治体も存在しますが、全国的にはこうした制度を採用している自治体はまだまだ少ないため、経済的な面で導入の妨げになっている部分があります。
また、介護業界で介護ロボットに対する知識や、運用する技術が浸透していないという点も挙げられれるでしょう。多くのスタッフが器具の正しい使用法について熟知していないので、操作方法を覚えるためのコストがかかる、介護ロボットを導入している施設の知識が他施設に共有されていないといった課題があります。つまり、運用する利点について広まっておらず、事業所はこれらの介護ロボットを導入した際の費用対効果に対して不安を抱いてしまうのです。
他にも、現場が介護ロボットに求めている機能を開発側が理解しきれていない点や、現場のインフラが老朽化しているためにロボットを導入できない点が挙げられています。
すぐに取り組める腰痛対策「ノーリフトケア」とは

導入によって腰痛を訴える職員が45%も減少
介護ロボットの普及が難しい一方で、新たな腰痛対策として近年注目されているのが「ノーリフトケア」です。ノーリフトケアとは、全身の筋力をうまく使ったり、福祉用具を使用して身体的負担をなくす介護・看護の方針を指します。
中央労働災害防止協会が発表した資料によれば、ノーリフトケアの導入前と導入後で、腰痛を訴える職員が71%から26%に減少。身体が楽になったという職員も約70%も増加しました。このノーリフトケアを行うことは、(介護施設の)利用者にとっても、過剰な筋緊張の改善や、拘縮、褥瘡などに予防効果があり、介護サービスの質の向上というメリットがあるとされています。
腰痛を感じている
出典:中央労働災害防止協会の資料を元に作成 2019年02月20日更新
現状では、導入のハードルが高い介護ロボットよりもノーリフトケアを取り組むことが、事業者・介護職員がすぐに取り組める腰痛対策と言えるでしょう。

現場レベルで行える腰痛対策が必要
ノーリフトケアは、中央労働災害防止協会が発表した資料のなかで、リフトを使用したものが例として挙がっています。要介護5の男性に対してリフト器具を使用し、体勢を変えたり、そのまま椅子に着席してもらうというリラクゼーションを実施。その結果、骨盤の傾きや筋緊張、呼吸や循環系の改善が見られ、睡眠の質も向上したとされています。
こうした効果が認められるうえに、スタッフの腰痛を予防できることを考えれば、現在の介護業界にノーリフトケアが必要であることは確かです。
もちろん、介護ロボットが普及し、ノーリフトケアと組み合わせれば、より腰痛リスクは軽減されるでしょう。しかし、介護ロボットの普及は国が支援や助成などの制度を整えなければならず、これを事業所やスタッフレベルで解決することは難しいと言わざるを得ません。
また、先述した開発企業と現場のニーズの乖離など、介護ロボットの普及には多くの課題を抱えていて、解決するにはまだまだ時間がかかりそうです。まずは現場レベルで行える対策を行うことが急務でしょう。そのためにも、現実的な腰痛対策としてノーリフトケアの推進を行い、認知度を高めていくことが、介護業界に必要です。