特養整備、用地・人材が壁
-15~17年度、計画の7割– ~財政難、自治体も慎重に~
要介護度の高い高齢者を主に受け入れる特別養護老人ホーム(特養)の整備が停滞している。需要は高止まりするが、土地不足や人材確保の難しさなどから、2015~17年度の新設数は計画の7割の4万5千床にとどまった。自治体によっては将来の事業継続の難しさや保険料上昇などを懸念して整備を抑えるほか、特養以外の受け皿充実を急ぐ動きもある。
都市部で進まず
日本経済新聞は1571の自治体・団体の介護サービスの整備計画について都道府県にアンケート調査を実施。「15~17年度の整備計画と実績」「18~20年度計画」のほか、65歳以上の高齢者のうち介護が必要となる人の割合などを聞いた。
15~17年度の特養整備では、18~20年度計画と比較できる43都道府県のうち37都道府県、計1万5千床分の整備が思うように進まなかった。2020年東京五輪・パラリンピックを控え、事業用地の不足が顕著となっている東京都心など、都市部を中心に整備床数が伸びなかった。
介護報酬の引き下げや要員不足による人件費高騰で、事業者に収益悪化への懸念が広がり、建設を控える動きが出たことも、整備が進まない要因となった。37都道府県が「事業者が集まらない」と回答。「介護人材が不足している」との回答も30都道府県あった。
厚生労働省が17年に発表した特養待機者は全国に36万6千人。要介護度3以上の待機者に限っても計29万5千人おり、需要はなお高止まりしている。ただ、待機者は東京都の2万5千人余りに対し、徳島県は1200人と、地域差も大きい。将来の人口減を見据え、整備に慎重な自治体も増え始めている。
計画に対し1300床の整備未達となった茨城県の担当者は足元で待機者が減少傾向にあることなども踏まえ、「計画は立てたが、整備を見送った例もある」と明かす。同県では18~20年度の計画数も15~17年度比5割減とした。「特養は充足しつつあるという判断。緊急に整備する状況ではなくなったと考えている」という。
15~17年度の未達率が77%と都道府県で最も高く18~20年度の計画数も61%減らした徳島県は「高齢者人口の減少を見据えると、50年先まで必要か分からない施設の整備を加速する状況ではない。不足している地域もあるが、状況を見極め整備を進めたい」という。岡山県は18~20年度、定員が30人以上の特養新設をゼロとした。
もっとも今後しばらくは、65歳以上で介護が必要な人は増え続ける。20年度には、17年度比9%増の683万人。「団塊の世代」が全員75歳以上となる25年度には771万人に達する。要介護者が高齢者人口に占める割合が2割を超えるのは17年度末に5県だったが、20年度末には17都道府県まで膨らむ。
介護保険料2倍
要介護者の増加で介護保険料も上昇が続く。18~20年度の全国平均(月額)は5869円。15~17年度より6%増え、00年度の制度開始時の2倍となった。厚生労働省は25年度に約7200円。高齢者人口がピークに近づく40年度には約9200円になるとみる。
社会保障費の増大に伴う財政難が施設の建設を進める障害を考える自治体も多く、15府県が「介護保険料の上昇」、10府県が「自治体の負担増」を懸念している。
「特養を新たに建設すれば保険料に跳ね返る。今度も必要数は整備していくが、特養にこだわらず、複合的に介護サービスを充実していきたい」(富山県)との声も増えている。 (山本公彦)
7/30付 日本経済新聞より